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Great Big Seaに関する雑談、その他音楽、あるいはただの読書日記

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『黙祷の時間』//Siegfried Lenz, 松永美穂 訳//新潮社


Lenzは『アルネの遺品』『遺失物管理所』以来です。
小説に対して偏ったものの見方をしていたわたしにとっては
どちらともあまり好きではないというのが2作を読んだ当時の感想でした。
なのになぜこれをわざわざ手に取ったのか。
なぜでしょうね?

18歳の男の子が美人な英語教師に恋をする。場面は彼女の追悼式から始まります。
現在にいながら過去を振り返って語る手法はJohn Banvilleの『海へ帰る日』と同じ。
違うのは、進む時間がこちらの方が遅いというところでしょう。
海に関する「波」という言葉は、やはり遠くのものを運び込むというイメージ。
そうして足元に寄り、わたしたちを海へ引きずり込もうとする。
シュテラを引きずり込んでしまった海へ。
そうして彼の時間は、過去のなかに閉ざされて終わる。

全体的に悲しい話なのは先に死んでしまっていることが挙げられているからで、
その前提がなければ微笑ましい男の子の恋愛です。愛しくなります。
女の人の現実主義にクリスティアンがぶつからなくてよかったなぁと、わたしなどは思います。
だってほんとに「結婚しよう」なんて言ったら、シュテラ困ったでしょうから。
言う機会がなくて、返事がもらえなくて、良かったんだと思います。
あと、自分の国のことをどう思われているか気にするのは、日本人もそうですからね。
きっと愛国者はみんな気にするのよ。

もひとつ連想したのはChristian Gaillyの『さいごの恋』。
老作曲家が海辺でさいごの恋をする。
わたしがこの作品をとても好きなのは、文体と終わりかたのためです。
妻が作曲家の療養しているコテージを訪ねて終わるのですが、
彼女、夫が生きているということそれ自体に喜ぶのです。
それがとても。なんというか。コテージに女の人がいて作曲家が彼女に恋をしていても
この奥さんは怒ったりしないだろうと思わせるのです。

Lenzはそれに比べて救いを用意しない作家に見えます。
少なくともわたしが読んだ作品には用意してくれませんでした。
作風としてはぱたんと閉じれる終わり方が好きです。
Lenzはいつもぱたんと閉じてくれません。
なぜ読むのかしら。
たぶん、この作品がわかるようになりたいと思うからでしょう。


『黙祷の時間』では、『遺失物管理所』『アルネの遺品』で垂れ込めた灰色ではなく
『さいごの恋』や『海へ帰る日』の穏やかな海色を思います。
それから最後に。Hemingwayも思わせました。
ドイツ語原文に英語が交ざるという点で。
Hemingwayも英語原文にスペイン語交ぜたりしましたよね。
この作品を英語に翻訳したときに、原文にて英語だった部分はどう表記されるのか。
きになります。
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性別:女性
自己紹介:
歴史(独愛蘇)と旅行が好き。
好きな作家
:いしいしんじ、江國香織、梨木香歩、藤沢周平、福井晴敏、
Christian Gailly、Ray Bradbury、Edgar Allan Poe、Oscar Wilde
好きな画家
:William Turner、Jacob van Ruisdeal、いせひでこ、いわさきちひろ
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