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Great Big Seaに関する雑談、その他音楽、あるいはただの読書日記

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『ハインリヒ・ベル小品集』//Heinlich Boell, 谷山徹 訳//圓津喜屋

キリスト教的作品。著者は二次大戦の帰還兵で、それは作品にも表れています。
思いの外気に入ったので、収録作品全て取り上げましょうか。


「エルザ・バスコライトの死」
連想は森鴎外の『舞姫』。ただ単に女の子が踊り子だってことだけれど。
あぁやっぱり踊り子はそういう評価なのね、という。
しかし日本では芸妓に対して売女とか言いませんよね?
言わないけど思っているのかしら。公然だから声にしないのかしら。
後半でHemingwayの「橋の袂にいた老人」を連想。
そして悲しさをぶちまけるために少年のポケットに果物を詰める主人公。素晴らしい描写。
彼が悲しいのは、バスコライト氏が変わってしまったことだとわかる。

「ベツレヘムの知らせ」
聖書のお話。聖家族がベツレヘムから逃げるほんの少し前の時間を書き取ったもの。
どう控えめに見てもヨセフは不要である、という誰だったかの言葉を思い出します。
(作品でも、マリア、キリストと一緒にいるのは大天使であり父ヨセフではない。)
ヨセフはまるで従属的な立場をとっていて、そしてなにもしない。
白百合を子供たちに配る大天使が印象的でした。これから殺されてしまう子供たちのために。
わたしはどきどき、キリストは罪を許すために死んだけれど
それは産まれたときに罪を犯したことで相殺されている気がします。
また死んだ後で何人も殉教しているわけで、
彼のために死んだ数はあなたが死んだことでは償えない、と思う。
教徒ではないので勝手なことを言いました。容赦。

「思いがけない出来事」
緊密な心理描写。一冊の内で唯一細かに心の動きが描かれます。
教徒でもないのに、彼の信仰心に胸打たれた。
誠実であれ。

「パンの味」
わたしにはちょっと難解でした。読めません。
聖体拝領はウエハースだし、しかしきっとこのパンはキリストの体の比喩でしょう。
干からびたパンと新鮮なサラダ、白いドレッシング。
宗教に飢えている。救いを求めている。シスター(教えを説く人)では救えない。
わたしこの作品に、肉感的なものの否定を感じます。

「青白アンナ」
帰還兵の経験が生きています。
息子を求める母親、その不在をどうしても認められない母親。
そして暗闇に生き続ける、許嫁を失って傷を負った女の子。
空っぽの主人公は求めるべきものを見つける。

「小人と人形」
Joyceの「痛ましい事故」の連想。ひどく機械的な主人公が重なる。
ちょこっとユーモラスでとっても悲しい。痛々しく悲しい。
神はいるか?

「当時の天井」
社会的! にやっとしました。皮肉に満ちている。
家から出たときの解放感、制圧から自由でいるらくだや偶像、インディアン。
政府が変わっても安心できない、と言う。
そう、決して安心してはならない。

「よみがえり」
タイトルからD.H. Laurenceを連想しました。
奇譚かな。そう呼んでよければ。
お迎えが来てしまった話。主人公の恋人の方が執念深かっただけのこと。
女性の一途さへの恐怖みたいなものも感じないこともない。

「攻撃」
生白い上官(しかも少尉ってどうなの)、皮肉なベテラン軍曹、なにも知らない少年兵。
理不尽な戦いにおいて彼らを踏み潰す戦車。
老兵の言葉にじんときた。戦争の勝ち方を知っている言葉。つまり、生きるということ。
生きて帰還することが勝利と彼は知っている。
だから退却のときに逃げれるように少年の装備を軽くしてあげるのね。
だけど少年は勝ち方を知らなかった。無防備に恐怖した。
装備品に慣らされて自身の強さを持てなかった。そして恐怖に殺された。
その後悔が涙かも知れないなぁと思います。


Erzaehlungは「話して聞かせること」、story。enは複数形。
定冠詞のない不安定さが、形の弱い、けれど陶磁器のような短編を上手く表している気がします。
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